4. モデルを使ってしくみを探る
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1. モデル論アプローチとは
複数の様々な現象が一定の目的のために相互に連関を持ち、それぞれの構成要素が有機的に機能しているような現象を説明したいと考えることもある
システムでの構成要素とその構成要素間の相互関係をとらえること
構成要素を変数としてとらえ、構成要素間の関係を数式によって示したもの
本書では、こうした、現象の意味論的側面に高い関心を持ってモデルを構築し、その真実度、それによる満足度、その説明の妥当性に関心をもつアプローチをモデル論アプローチと呼ぶことにする 2. モデル論的アプローチと最適性
2-1. 最適型モデル
そのモデルによる説明効率を最大にするという目的
目的に沿って評価基準が立てられ、その評価基準が最大になるようなモデルが最適性モデルとして選択される
たとえば、2つの変数間の関係性を表す「相関」の強さを、強引に1次関数的に表そうとするとき、その「傾き」の大きさを求めることになる
この一次関数のモデルでは、想定された直線までの、各データからのy軸の距離の総和が最小になる場合が「最適」解であると考えられる
こうした最適化モデル分析は、そのモデルが完全に数学的に記述できる場合は大いに力を発揮する
ここでも、そのモデルの目的が何であるのかによって評価基準が異なり、完全に一義的に「解」が求められるわけではないことに注意が必要
2-2. 非最適型モデル
各構成要素に異なる値(量的・質的)を代入してみるとシステムがどのように動くのかを検討するという目的
3. モデル論的アプローチの具体例
3-1. 非最適型モデル1:SOARモデル (Newell, A.)
人間の思考に関する総合的モデル
問題解決行動
(State) 今、どういう状態になっているか
(Operator) それに対してどういう操作をとればいいか
(And Result) その結果どうなるか
人間の知識
「AはBである」という、AとBの同格性、等質性を宣言した形の知識
行動が行われたときに背景に持っている知識であるが必ずしも意識的にその知識に気づいているわけではない
「もしPならQせよ」あるいは「もしQするとPになる」という形で、行為・活動とその結果起こる現象との関係を表したもの
宣言的知識はすべて手続き的知識の形式に変形しうる
「三角形の内角の和は180度である」は「三角形の頂点の角を一箇所に集めれば直線(180度)ができる」と同等
こうした、if P, then Qの形ですべての知識をとらえたものをプロダクションという プロダクションとその集合(プロダクション記憶)、認知された諸条件を一時保管し作業する場所と諸作業の競合を解消させるためのルールと言う基本的な構成要素で成り立っている、とみなすのがプロダクション・システムである https://gyazo.com/e7a4f2760c79a18fb3095c3a0c3a12c9
情報処理システムとしての人間は、知覚システムで環境からの情報を入力し、運動システムで最終的に環境に対して出力する、とみなされる 一方で人間は、長期記憶の中におびただしい数のプロダクションを蓄えており(プロダクション記憶=知識)、知覚・運動システムとそうした長期記憶との間に、作業台としての作業記憶を想定する 長期記憶としてのプロダクション記憶は、大きく分けて三つのコンポーネントが想定される
知覚システムから入力されたものを、シンボルに記号化する役割を担う e.g. 空から降ってきた水なるものの特徴を「モノ」の世界からシンボルの世界に記号化する
結果を作業記憶にいったん戻す
作業記憶に並べられた諸シンボルの集合が何であるかのかを認知する
e.g. 「あっ、雨だ」
得られた結果は再び作業記憶に載せられる
その認知に関連した、行動に結びつくプロダクション
e.g. 「雨なら、傘をさす」とか「雨なら、軒先で雨宿りする」
そのプロダクションの後件(if P, then Q. のQの部分)が再び作業記憶におかれ、運動システムに伝えられ、Qが実行される
このモデルでは、人間の思考を、プロダクション・システムに基づく問題解決的思考ととらえ、知識はすべてプロダクションの形で蓄えられている、と想定している
ただ、このモデルでは、どういう動きをしたときがもっとも適切なものになるのかという最適化の解を出すことを目的としない、非最適性モデルになっている
様々な状況を想定して、P, E, C, D, Mコンポーネントにさまざまなものを当てはめてシミュレーションできる
3-2. 非最適性モデル2:均衡化モデル (Piaget, J.)
モデルの基本構造は同一に保ちながら、その中の構成要素の「質」が変化していくという発達のモデルもある
ピアジェもサイモン同様、人間が具体的環境のもとで立ち振る舞う中で、どのように表象や認識が獲得されていくのかについて強い関心を持った 子どもが目の前のブロックを押して動かして遊ぶ、という状況を考える
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指でブロックを押す(主体の運動Ms)
対象には主体の側からかけられた押す力(Ps)がかけられる
それに対して対象からの抵抗力(Ro)が主体の側に帰ってきて(a)、PsとRoのバランスによっては対象の動き(Mo)を観察できる(b)
「押すと動く」という因果関係の認識
発達の段階に応じてこの構成要素は質の変貌をとげていく
これは表象発生のモデルとみなすこともできる
3-3. 最適型モデル:ACT-Rモデル (Anderson, J.)
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2種類の知識(宣言的知識、手続き的知識)に加えて、行動に導く意図を階層化して示した階層目標の記憶である「目標の山」という3種類の記憶を想定する 真ん中にある、当面注意を集中すべき「現在の目標」を介して有機的につながっている
システムの動き方
外界の知覚からはじまっってその認知・解釈が行われ、手続き的記憶から適切なプロダクションが検索され、現在の目標におかれる
そこに複数の該当するプロダクションがある場合、矛盾が解消されていずれかが実行され、「現在の目標」が実効・達成されると「目標の山」から次の目標が「現在の目標」に持ってこられる
3-4. ACT-Rでの矛盾解消ルール
このモデルで最も重要な評価基準で、どのプロダクションが選択されるかについての基準
そのプロダクションを選択したらどの程度目標到達に貢献できるかを示した期待値($ E)
$ E = PG-Cという公式で表現する
$ P: そのプロダクションの実行で目標に到達できる確率
$ P =qr
$ q: 当該のプロダクションだけで目標到達ができる可能性
$ qはデフォルト値の$ 1が推薦される
$ r: そのプロダクション以下に続くプロダクションで目標到達ができる可能性
$ rもデフォルトは$ 1であるが$ 1以外の値もありうる
$ G: 目標到達の意義・価値の大きさ(デフォルトで20とする)
$ C:目標の到達までにかかると思われるコストの大きさ
$ C = a + b
$ a: プロダクションのコスト
$ aはプロダクションが実行される実際の時間的コスト、すなわち、人間の「行為」の最小時間単位50msecをデフォルトとし、$ 0.05で表す
$ b: プロダクションが実行された後、なお目標達成に必要だと想定されるコスト
$ bはデフォルトは$ 1であるが、それ以外もありうる
目標到達の意義・価値の大きさであるGは20とデフォルトで置かれるので、結局、PとCの値の決定、すなわちq, r, a, bの値の設定がそのプロダクションの価値の高さを示すこととなる
PG-Cルールは結局、$ grG-(a+B)となり、推奨されるデフォルト値を当てはめてみると
$ E = PG-C = qrG - (a + b) = 20r - (0.05 +b)
ということで、$ rが大きい場合、または$ bが小さい場合、そのプロダクションが解消ルールから選択される可能性が高くなることがわかる
e.g. 雨の日に玄関先の夕刊を取りに行く際、どのプロダクションを選択するか
table: どのプロダクションを選択するか
r b E
もし雨ならば傘をさす 0.8 0.5 15.45
もし雨ならば、軒先で雨宿りをする 0.5 0.8 9.15
もし雨ならば、小走りで用を済ます 0.8 0.1 15.85
最も高いPG-C値が得られる「もし雨ならば、小走りで用を済ます」が選択される